東京のイメージと言ったら、高層ビルが立ち並ぶオフィス街、大勢の人でにぎわう商業地域や歓楽街、おしゃれなカフェやお店がならぶハイソな街並み、などを思い浮かびますよね。
しかし忘れてはいけないのが「下町」。『ALWAYS 三丁目の夕日』や『寅さん』がいい例ですが、そのイメージから昭和情緒・昭和レトロを感じさせることもあり、「下町に住みたい」と思っている人も少なくないそう。
でも、東京の下町っていったいどこ?これ、何が基準なのでしょうか?そして下町に対応する言葉として「山の手」がありますが、具体的にどのあたりで分かれているのかハッキリと把握していない人も多いのではないでしょうか。
そもそも下町は、地理的・地形的要因だけで決まってしまうものなのでしょうか?今回はそんなことを簡単に紐解きながら、観光などにおすすめな昭和レトロな下町を紹介していきたいと思います。
地形で見る下町と山の手

引用:国土地理院
上の画像は東京都心部の標高地形図です。色が黄色になるほど標高が高く、いわゆる丘や台地にあたります。一方色が青色に近付くほど標高が低い低地となります。
中央やや左上にある、青色で囲まれれている地域が皇居がある場所。皇居の右端あたりを境に、東側が標高の低い低地で、西側が標高の高い台地となっていますね。
この東側の低い土地に広がる街が、そのまま「下町」と呼ばれ、反対に西側の高台にあたる山の方が「山の手」となるわけです。おおざっぱな目安で言えば、JR京浜東北線の東側が低い土地の下町で、西側が高い土地の山の手となります。
このように地形だけで見た場合、下町と山の手の判別は一目瞭然で、東京23区の東側は基本的に下町に該当する地域なのです。
現在の下町ができ上った歴史の大元は、徳川家康による江戸の町の開発に始まります。家康が江戸に来たとき、高台には大名屋敷を建て、そして江戸城周辺の低地に城下町をつくります。そのうちの庶民が暮らす地域が下町の始まりです。
はじめの下町は今の神田や日本橋周辺だけだったようですが、時代が進むにつれて上野や浅草方面に広がっていき、そして明治・大正・昭和となるにつれて、さらに東に拡張されていきました。
イメージとしての下町
下町は地理的には23区の東側なのはわかりましたが、東側全てを「下町」とひとくくりにしてもいいのでしょうか?「低地にあるから下町」なのは間違いではありませんが、かといって、それが一般的にイメージされる「下町」と同じかどうかというと、違いますよね。
例えば中央区銀座。場所は皇居からみて南東にあって、京浜東北線よりも東側にあります。地形的・地理的な基準だけで見れば間違いなく下町ですが、この日本一地価が高い商業地域を「下町」という言葉から連想する人がいるでしょうか。
やはり時代の流れや都市開発によって、「下町」に対するイメージが変わってきたのでしょう。そもそも、平成が終わるこのご時世に、江戸時代の基準だけで考えていたら現実に即さないのは当たり前のことですよね。
そこで重要になってくるのが、現在の下町に対するイメージではないでしょうか。よく使われる表現として「下町情緒があふれる街並み」「昭和情緒」なんかがありますよね。
それをもうちょっと詳しく見ると次の通り。
- 昭和レトロ、場合によっては江戸時代の雰囲気も味わえる歴史的な印象
- 近隣に寺社仏閣があって、お祭りの時は縁日でにぎわう
- そこに住んでいる人に絆や連帯感、人情がある
- その地域にある商店街は生活感と活気がある
- おじちゃんおばちゃんが営んでいるような個人商店が多い
- 夕日や野良猫が似合う町
こういった雰囲気を持っている地域が下町と呼ばれるのではないでしょうか。逆を言えば、近年はこのような雰囲気を持っていれば、地形的・地理的には山の手に当たる場所でも「下町」と呼ばれる傾向があります。
総合すると現在で言う下町は、場所としては東京東部(一部例外あり)で、上記のような雰囲気を持った地域と言えますね。
それではそれを踏まえて、次のページでは「東京で下町といったらここ!」という昭和レトロな下町を紹介していきたいと思います。地方から来て観光に行くのもいいですし、東京住まいの人だったら、遊びに来た友人などを連れて行って、大都会の喧騒とは違った東京の側面を感じてもらうもよし。
昭和レトロな雰囲気がたまらなく好きなら、下町に思い切って住んでみるのもいいかもしれませんね。なんでも、こんな下町情緒ある雰囲気が好きで海外から移住してくる外国人もいるんだとか。
下町といったら、やっぱりここ!浅草

壮大な雷門
既に観光地の定番となっている浅草。日本人も外国人も多く訪れる人気のスポットですね。
アクセスは東京メトロ銀座線・都営地下鉄浅草線・東武スカイツリーライン・つくばエクスプレスの浅草駅。
代表するスポットはやっぱり浅草寺。昼間はもちろんのこと、日が沈んでからも結構な人でにぎわっています。その理由のひとつは「東京スカイツリー」。
夜暗くなってからライトアップされたスカイツリーを、周りの高い建物に邪魔をされない浅草寺の敷地から写真を撮る人をよく見かけます。歩いても20分強で行けるので、散歩を兼ねて両方行くのもおすすめ。
雷門の大きさに圧倒されながらもそこをくぐると、浅草寺につながるその道はレトロな雰囲気を感じさせる仲見世通り商店街。お土産を買うもよし、食べ歩きをするもよしの必見ポイント。
そしてこの仲見世通りにも夜の見所があります。商店街自体は7時ころにはほとんど閉まってしまうのですが、シャッターが無機質なグレーではなく、「浅草絵巻」となっていて夜でも楽しませてくれます。
他にも浅草ホッピー通りという大衆居酒屋が並ぶ通りが、浅草寺の西側にあります。夜はもちろん、昼飲みも楽しめる通りですよ。
こちらも外せない、「寅さん」の柴又

駅前には寅さんが
映画『男はつらいよ』でお馴染みの寅さんの町、柴又。アクセスは京成金町線の柴又駅。
駅の北側に出れば「フーテンの寅象」が立っています。駅を出ると、すでに商店街が始まっているかのような街並み。昭和レトロ感漂うお店が多く、まさに下町の商店街を予感させます。そのまま北に進んで行くと、大正元年に始まった、柴又帝釈天参道商店街があります。
このあたりまでくればレトロ感も本気モード。昔ながらの家屋の商店が多く並び、タイムスリップした雰囲気に。ここでおせんべいやお団子を買って食べ歩きしながら進んでいくと、お馴染み帝釈天にたどり着けます。彫刻に興味がある人なら、彫刻ギャラリーは必見です!
もちろん帝釈天以外にも見どころがあります。帝釈天から南東方面に行けば山本亭。ここは大正時代に建てられた庭園が立派な民家で、抹茶を飲みながらその庭園を眺めることができます。
さらにその近くには寅さん記念館、また江戸川が近くに流れていて、そこには演歌で有名な「矢切の渡し」があります。高齢者だったら、「ここがアレか」と思うのではないでしょうか。
猫でも有名、谷根千

谷中銀座の入り口
谷根千(やねせん)とは、谷中・根津・千駄木地域周辺の総称です。地理的にはJR日暮里駅の西側に位置します。アクセスはJR日暮里駅、もしくは東京メトロ千代田線の千駄木駅。
日暮里駅から西に進むと、きれいな夕陽が見れる有名スポット「夕やけだんだん」。そしてそこを下ると、メディアでも取り上げられる谷中銀座商店街へと続きます。今では年間を通して外国人観光客で溢れ、東京を代表する人気の観光スポットとなっています。
このあたりは猫で有名で、夕やけだんだん付近でも猫を見かけますし、近くにある谷中霊園でも猫に合うことができます。そんな土地柄か、商店街でも猫をモチーフにしたお土産を売っていますし、猫をモチーフにしたスイーツまであるんだとか。
夕やけだんだんで夕陽を眺め、そこにいる猫を愛でながら商店街を歩けば、何ともいえないノスタルジックな雰囲気を味わえます。
少し足を延ばせば根津神社があります。ここの千本鳥居は圧巻の一言。さらに春になればつつじが約3000株も咲き乱れる名所。それ以外にも緑が多く心洗われます。
おばあちゃんの原宿、巣鴨

地蔵通り商店街へようこそ
「おばあちゃんの原宿」としてたびたびメディアで取り上げられる巣鴨。よく高齢者にインタビューをする映像が映りますが、この巣鴨で行われていることが多いです。
アクセスはJR山手線と都営地下鉄三田線の巣鴨駅。また都電荒川線の庚申塚駅。
立地的には豊島区に該当するので地形的には「下町」ではありませんので、イメージとしての「下町」が定着した地域と言えますね。
巣鴨と言えば、「とげぬき地蔵」でお馴染みの「巣鴨地蔵通り商店街」。ここもまた下町情緒あふれる、どこか昔懐かしい雰囲気を感じさせる商店街です。
商店街の中にはとげぬき地蔵の高岩寺、商店街の南の入り口には江戸六地蔵尊の真性寺、そして北側の入り口には巣鴨庚申塚があり、お地蔵様と庚申塚に守られた、とても平和で心地よい雰囲気。
もしこの地域に遊びに来るなら、毎月4日・14日・24日と4が付く日がおすすめ。というのはこの日には縁日が行われているから。こちらも懐かしいレトロな雰囲気を感じさせる露店が並び風情を感じさせます。
周辺にはいくつも史跡があるので、それらを見て回って歴史に触れるのもいいですね。近くを都電が通っています。
都心部にある下町、神楽坂

裏道の情緒ある道
こちらも巣鴨同様に、地形的には山の手にあるイメージとしての下町の地域。アクセスはJR中央線、東京メトロ南北線・東西線・有楽町線、都営大江戸線の飯田橋駅。
毘沙門天が面するメインストリートは、基本的には現代的な店が並ぶ商店街。その中にぽつぽつとレトロ感があるお店が存在しています。
神楽坂地域で下町風情を感じたい場合は、このメインストリートである神楽坂通りから一本奥に入って行かないといけません。そこに入って行けば、趣ある料亭があったり、庭先の緑を楽しんだりとレトロな雰囲気を感じられます。
他にも石畳の小道や石の階段など、都心部にいながら古風な情緒を感じられます。毘沙門天の善國寺以外にも神社やお寺があるのでそれらを見て回るのもいいですね。散歩だったら飯田橋川の外濠公園もおすすめです。
「深川めし」でお馴染みの深川エリア

深川不動尊
江東区に位置する深川エリアも下町として有名。「深川」という地名は、江戸時代にこの地域を開拓した深川八郎右衛門に由来するんだとか。
アクセスは、北側からは東京メトロ半蔵門線・都営地下鉄大江戸線の清澄白河駅、南側からは東京メトロ東西線・都営地下鉄大江戸線の門前中町駅が便利。
深川の見所のひとつが「深川江戸資料館」。この資料館は名前通り江戸時代の資料を収集・展示しているのはもちろんのこと、館内に江戸の街並みが再現されているのが大きな魅力。
江戸時代の街並みを、なんと実物大で再現。照明などを使って一日の時間の移り変わり演出されるほか、再現されているお店などに上がって、実際に生活用品に触れることができる体験型展示物なのです。訪れる場合は地区の北側なので清澄白河駅を利用しましょう。
一方南側の門前中町側に行けば、「深川不動尊」、そして「富岡八幡宮」があります。深川不動尊はパワースポットとして有名ですし、富岡八幡宮は「江戸三大祭」のひとつである「深川八幡祭り」が行われるところです。
おしゃれなスポットが増えてきた地域でもありますが、レトロなお店や寺院もある地域ですので、たまには深川めしでランチをして散策するのもいいんじゃないでしょうか。
東京の北の玄関口・上野(アメ横)

アメ横の摩利支天
大きなターミナル駅である上野駅。近くに幹線道路があり、オフィスビルも多いので、人によっては「下町じゃないでしょ。」と思うかもしれませんね。それでもあえて紹介したい、上野・アメ横。
アクセスはJR上野駅と御徒町駅の間の地域。他にも東京メトロ銀座線・日比谷の上野駅、日比谷線の仲御徒町駅、都営大江戸線の上野御徒町駅が使えます
この商店街は常に活気があり、大勢の買い物客や観光客でにぎわっています。特に食料品のお店からは安売りを案内する、怒号にも近い声が聞こえてくるのが名物です。そんなお店と客のやり取りも人と人とのコミュニケーション。これもある種の下町らしさではないでしょうか。
そして大衆的な居酒屋が多いのもアメ横の下町らしさを感じさせるところ。お店と客の距離感も近く、また客同士も距離感が近い、そんなお店が大繁盛。実際「にぃちゃんは、どんな仕事してるんだい?」なんて気さくに声をかけられたこともあります。
また、他の地区同様に寺社仏閣もあります。アメ横内に「摩利支天」がありますし、近くの上野公園には不忍池の「弁財天」を始めいくつも寺社仏閣があるんです。
「下町風俗資料館」もあり、こちらも実際に手に取ることができる体験型。深川が江戸時代だったのに対し、上野は江戸情緒を残す大正時代といったところ。
忘れちゃいけない、月島・佃エリア

月島のもんじゃストリート
下町として忘れちゃいけないのが月島・佃エリア。月島のもんじゃ焼きと佃の佃煮は有名な下町フードですよね。
アクセスは東京メトロ有楽町線よ都営地下鉄大江戸線の月島駅。駅の北東側が佃で南西が月島になっています。
最近はタワーマンションが増えてきましたが、それでも今なお下町情緒あふれる街並みを残している地域。この地域は太平洋戦争の戦禍を逃れた地域のため、関東大震災以降に建てられた当時の建物が残っているんだとか。
ひとたび路地裏に入ればレトロ感ある民家を見かけますし、佃堀周辺も趣ある下町風景が残っています。その後ろに広がる高層マンションとの対比もまた、この地域を象徴する風景として人気だとか。
月島のもんじゃストリートでもんじゃ焼きを食べたあとで、佃島住吉神社などをお参り、そして佃煮を買って帰るなんていうのが定番の散策コースなのではないでしょうか。
伝統ある下町、日本橋人形町

人形町からくり檜
他の地域に伝統がない、ということではありませんが、日本橋人形町はやはり文化・伝統に関しては飛びぬけているのではないでしょうか。それは、人形町という名前の由来。江戸時代に歌舞伎や人形浄瑠璃の小屋がこの地域には並んでいて、人形使いが大勢住んでいたことが名前の由来とされています。それだけ江戸時代の文化の中心地だったと言えますね。
アクセスは東京メトロ日比谷線と都営地下鉄浅草線の人形町駅が便利。東京メトロ半蔵門線の水天宮前駅からも歩いて行けます。
建物こそ現代的なビルも増えてきましたが、それでもいろんなところに人形焼きをはじめとするお菓子屋さん、そして和食屋さんを目にします。食べ物以外では扇子や手ぬぐいなどのお店があり、それもまた趣を感じさせますね。
人形町界隈には水天宮を始め8つの神社がありますので、それを巡る散歩もおすすめ。
広範囲にひろがる下町、神田エリア

神田明神は、お正月は特に大混雑
神田も下町として認識されているエリア。ただちょっと特徴的なのは「このあたり全域が、いかにも下町な地域」というのではなく、「下町っぽいところがいくつか点在している」ということ。全てを紹介してはキリがないので、主だったところを紹介していきます。
まずは神田須田町。アクセスは東京メトロ丸の内線の淡路町駅、および都営地下鉄新宿線の小川町駅。名前は違いますが同じ場所にある駅です。
地上に出ると靖国通りと外堀通りという大きな通りの交差点に位置しているのですが、その交差点の北東部にある地区に老舗の名店がいくつかあります。私が秋葉原に行くときは淡路町駅から歩くのですが、その際この地区を通り、いつかこんなお店で食事をしたいと思いながら通っています。
続いては外神田。外神田はいわゆる「秋葉原」になる地域ですが、今回はその中でも西の方にある「神田明神」。AKB48の成人式を迎えるメンバーが振り袖姿で訪れるのが、この神田明神です。「ラブライブ!」でも有名ですね。
アクセスはJR秋葉原駅よりも、JR御茶ノ水駅の方が便利。淡路町・小川町からも歩いて行けます。
「江戸三代祭」のひとつ「神田祭」を行う神社で、神田や秋葉原はもちろん、大手町・築地まで含む108つの町会の総氏神。昔は神田明神を中心に下町が栄えていたのではないでしょうか。
最後は神田神保町。アクセスは東京メトロ半蔵門線、都営地下鉄三田線、新宿線の神保町駅。この地域で有名なのは、やっぱり神田古書店街でしょう。白山通りと靖国通りの交差点周辺には100を超える古書店があります。それ以外にも老舗の喫茶店などもあって落ち着いた雰囲気を味わえます。
これら以外のところにも、オフィスビルや雑居ビルのあいだに老舗のお店があるのがこの地域の面白いところ。神田明神以外にも小さな神社がいくつかありますしね。
一日で全域を見て回るのは難しいですが、何回かに分けて散策して古い街並みを新しく発見するのもいいのではないでしょうか。
まとめ
この記事では東京の代表的な下町をピックアップして紹介しましたが、探せば他にもたくさんあります。イメージとして呼ばれる下町だったら、それこそ昭和な雰囲気のある古い商店街などはほぼ含まれるのかもしれません。
街は時代の流れとともに変わってくるもの。下町という言葉もまた、時代の流れで意味合いが変わってきています。とは言っても変わらずに残っている部分もあって、それが「下町情緒」という言葉で語り継がれているのではないでしょうか。
昭和レトロを感じたい人は住むも良し、遊びに行くも良し。自分の心に響く「下町」を見つけに、東京散策をするのもいいのですね。今回紹介した下町は東京の観光スポットとしても人気なので、ぜひお出かけしてみて下さい。
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